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カレンダーこぼれ話 vol.9「駅の生まれ変わりの美術館とその作品群 Musée d’Orsay」後編

前編に続いて、後編ではオルセー美術館を彩る作品の一部を、カレンダーを通してご紹介していきます。
ぜひご覧になってみてください。

 

踊り子の緊張の一瞬を切り取った名作

カレンダーにも登場する名画をいくつかご紹介すると、2月のページは踊り子を描いたことで知られるエドガー・ドガの名作のひとつ「ル・ペルティエ街のオペラ座の稽古場 Le foyer de la danse à l’Opéra de la rue Le Peletier」。

ドガの作品の半分以上はバレエを扱った作品で、中でも舞台袖や練習中の踊り子の姿を多く描きました。
この作品はタイトルからわかるように、あの有名なオペラ座で踊るための稽古場の様子を描いた作品です。

オーディションの最中なのか、画面左の踊り子をこれから審査しようと構えるように、右には教師のような男性、その横には演奏を担当するバイオリニストが佇んでいます。
緊張に張り詰めた踊り子の横顔、全体を囲むように練習をしながら自分の番を待つほかの踊り子たち。華麗な世界の裏にあるシビアな一場面が目の前に広がります。

いくつかのモチーフがバランス良く配置されていることが特に評価されているこの作品。
画面中央の椅子と、その上に置かれた赤い扇と白いリボン。左端に描かれたドアからちらりとのぞく片足とチュチュが、間延びしそうな空間を見事に調和させています。

ドガの繊細なタッチで描かれた大胆な構図や、一瞬の動きを捉えた作品の数々は息をのむような美しさです。
中でも『踊りの花形(エトワール)』という作品は、CMや動く絵本など多方面で使われているので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

伝統的な技術を使って現代の主題を描くことで知られ、動きの描写を得意としたドガは、踊りに真剣に取り組むプロフェッショナルな踊り子たちの光と影をありのままに表現しました。

「誰でも25の時には才能がある。難しいのは50になった時、それが残っているかだ」という言葉をのこしたドガの真剣な姿勢と観察眼を、絵を眺めながら感じてみてください。

 

孤独な人間の安堵と親近感を描いた名作

そして、7月のページに使われているのは「ムーラン・ルージュ」のポスターなどを手掛け、ポスターを芸術の領域にしたことでも知られるトゥールーズ=ロートレックの「赤毛の女性 Rousse(La toilette)」。

不遇な生い立ちや、子供のころの骨折がもとで足が不自由になり、孤独な生活を送っていたことから、ロートレックは世間から軽視されていた娼婦や踊り子に親近感を抱いていたそうです。

この作品は副題を「化粧」としながら、その表情を見せず、あえて着飾っていない素肌の赤毛の女を中心に添えることで、孤独感と一時の休息を表現していると言われています。
ロートレックは先述した画家のドガをとても尊敬していたそうで、覗き見ているような視点からはその影響が垣間見えます。

「人間は醜い。されど人生は美しい」という言葉を遺したロートレック。
この言葉からは、モデルの外見でなく、内面を描くことを重要としていた彼の姿勢が伝わってきます。
「どこよりも一番くつろげる」と娼館に頻繁に顔を出していた彼は、気どりのない娼婦の強さや優しさ、そしてその孤独に癒されていたのかもしれません。

 

己を追求した天才画家の単純なようで複雑な名作

10月のページは静物画で知られるポール・セザンヌの「台所のテーブル La table de cuisine」。

机に置かれた壺や果物。
様々な方向から見たように描かれる手法が特徴のセザンヌの静物画ですが、この作品では特に果物の入った籠が目を惹きます。

手前の壺たちとは異なり、テーブルに乗りきれずに浮かんでいるような不思議なバランスで描かれる籠。さらに、その右に描かれた椅子の足の傾き加減が見る人を混乱させます。

その独特な味わいに加えて、さらにテーブル上の果物の配置も細かく計算されているんです。
じつは描かれている果物はすべて「2つセット」。そして各々の色も、周囲と調和するように色付けされています。

部屋の中に果物の香りがただよってきそうな美しい静物画ですが、じっと見ているうちに、その中に秘められた絶妙な個性が際立ってきます。

「リンゴひとつでパリを驚かせたい」「自然にもとづいて絵を描くということは、対象を写生することではなく、自分の感動を現実化するということだ」と口にしていたセザンヌ。
何年も努力を重ねて自分だけの手法をつくり上げた「モダンアートの父」とも称されるセザンヌの作品を、じっくりと眺めてみてください。

 

時代を彩る名画を楽しんで

この他にも、ルノワールやゴッホ、ゴーギャンにピサロなど、そうそうたる顔ぶれの巨匠の作品が毎月登場します。
これだけでも、オルセー美術館に収蔵されている作品の豪華さがわかりますね。


世界最大級の美術館として知られる、フランスのルーブル美術館には主に1848年までの芸術作品が収蔵され、オルセー美術館にはその後の1848年以降から1914年までの作品が展示されています。

フランスに革命が起き、民衆たちが立ち上がった時代からの作品を多く収めたオルセー美術館に足を運ぶと、
当時批判されていた印象派からポスト印象派など、新しく広がった現代アートの先駆けともいえる19世紀の花形作品たちを一望できます。

 

海外旅行や人が集まる場所に行けなくなった、行き辛くなった今、お部屋で小さな作品展を開催している気持ちで名画に触れてみるのはいかがでしょうか。

深みのある色彩や精巧なタッチにあふれたアートの世界を楽しみながら、「この絵はどんな人が、何を思いながら描いたんだろう」と想像しつつ日常を過ごしてみるのもオススメです。


 

※オルセー美術館の作品を集めたカレンダーには、他にNK-409「フィルムカレンダー パリ・オルセー名作選」もございます。
そちらは大画面と美しいフィルム印刷で名画を楽しめるカレンダーになっています。

 

参考文献:

分冊百科・西洋絵画の巨匠たち「セザンヌ」,『週刊グレート・アーティストNo.6』1994年7月5日号, 同朋舎出版.
分冊百科・西洋絵画の巨匠たち「ロートレック」,『週刊グレート・アーティストNo.7』1994年7月12日号, 同朋舎出版.
La muse No.1「オルセー美術館」1992年5月26日号, 講談社.

 

 

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