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カレンダーこぼれ話 vol.7「ルノワール “幸せ”を描き続けた巨匠」後編

こんにちは。
さて、前回に引き続き、ルノワールの人生に迫っていきたいと思います。

ルノワールの人生を変えた「特長」とは?
その知名度の高さや、柔らかく優しいタッチから、裕福で豊かな雰囲気があるルノワールですが、彼が世間に認められるまでには苦しい時代がありました。

そもそも、画家の世界では珍しく労働者階級出身だったルノワール。ところが彼は貧しさに引け目を感じることなく、“僕たちの人生には醜いものが十分あるから、絵画にまで持ち込まなくていい、絵の中ではいつも楽しいこと、『幸せ』を描くんだ”と話していたそうです。そして何より、絵を描くことを愛していました。

幸福感にあふれた絵を描くルノワール。じつは、彼には他の画家にはない、ある特長がありました。
武器ともいえるその個性は、“明るく気さくで誰とでも話しができる”こと。

え、そんなこと?と思われるかもしれませんが、当時の画家の仲間ではとても珍しかったそう。
政治の派閥争いや、グループの主義にも巻き込まれるのを嫌い、誰とでも平等に接する。どこか飄々としていながらも、親しみやすい優しい人柄。

そして“画家の職業で大事なのは忍耐強さと規則正しさであり、モデルはモデルで、ロマンティックな熱情に身をゆだねることはない”と、男女の関係にも誠実。
結婚後には男の子を三人もうけますが、転ばないように床をロウで磨かせず、けがをしないように子どもの髪を長く伸ばさせておくなど、過保護なほどの子煩悩な一面も。

こうしたルノワールの、誠実で親しみやすく誰とでも付き合える人間性が、彼の人生を少しずつ変えていきました。

 

印象派から独自の道へ
まず、「サロン」でも大きな力を持つ出版業者のジョルジュ・シャルパンティエにその人柄を気に入られ、38歳でシャルパンティエ夫人と子どもの肖像画を手掛けます。

婦人の影響力もあり、その絵は「サロン」の中でも良い位置に飾られました。そして彼の肖像画は賞賛され、大成功を収めます。

この成功から、貴族の肖像画などの依頼が増えていき、人物を描くことも得意としていた彼は、少しずつ生活が豊かになっていきました。

社交場でのエピソードとしては、ルノワールがある晩餐会に上着を忘れて出向いてしまった時、彼に恥をかかすまいと、そこにいた上流階級の男性たちが皆、上着を脱いで過ごしたというものもあるそうです。彼が社交界で愛され、受け入れられていたことがよくわかります。

その他にも、戦争が激化した際、写生をしていたルノワールはスパイとして逮捕されそうになりますが、偶然通りかかった警察官と知人であったため危ういところで免れるなど、人とのつながりが幾度もルノワールを救いました。

そして40歳の頃、お金を得たルノワールは北アフリカやイタリアなど、影響を受けた画家のゆかりの地を旅行し、自分の作風を見つめなおします。

こうしてルノワールは少しずつ印象派から離れ、独自の道を追求しますが、そんな時、悲劇が彼を襲いました。
自転車から落ちて右腕を骨折したことからリューマチに侵され、ついには腕が動かなくなり、歩くことも困難になってしまいます。

しかし、驚いたことに、それでも彼は創作の手を休めませんでした。
手首に包帯でぐるぐると筆を巻き付け、腕が硬直しても、ひたすらに絵を描き続けたのです。


病にも負けず、最期まで偉大な画家人生
いつしかルノワールの作品は、国に購入されるほどに名声を高めていました。

そして、彼の作品は「ルーヴル美術館」「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」などの有名な美術館に展示されるまでになります。

ルーヴル美術館に招かれた彼は、多くは語らなかったそうですが、昔から通った美術館に、巨匠の作品と並び飾られた自身の絵を見て、その胸の内はどんなものだったでしょうか。

人気が出たルノワールの作品には、贋作も多く出回るようになるのですが、なんとルノワールは贋物を買った人に絵を描き直してあげていたそうです。
多くの人に評価されるようになっても変わらない優しい人柄が感じられますね。

 

死の床で、78歳のルノワールは1枚のアネモネの花を描きました。
そして「ようやく、絵を描くということが何かわかりかけてきた気がする」と言い残し、静かに息をひきとったそうです。

この逸話の真偽のほどは不明と言われているのですが、リューマチに身体を侵されながらもなお作品を生み出し続け、心底絵を愛したルノワールだからこそ、遺された話のような気がします。

ルノワールの次男、ジャン・ルノワールは父譲りの美しい色彩センスを評価され、映画監督として成功します。その助手を写真家のアンリ・カルティエ=ブレッソンが務めたこともあるそう。

ルノワール亡き後も、彼の作品はこうして世界中の芸術家に影響を与えていきました。そしてそれは現代にも受け継がれています。

2021年の新しい年。ルノワールの作品を集めた美しいカレンダーを眺めながら、180年前の彼に影響を受けながら過ごしてみませんか?
見たことあるような作品から、お気に入りの作品へ。ルノワールの描いた『幸せ』な時間をじっくりと味わってみてください。

 

 

■Géraniums et Chats
ゼラニウムと猫  1881年 個人蔵 
■Jeunes filles au piano
ピアノを弾く少女たち 1892年頃 パリ・オルセー美術館
■PLa Première Sortie
初めてのお出かけ 1876年 – 1877年 ロンドン・ナショナル・ギャラリー

参考文献:①パトリック・ベード/訳者:宮崎克己(1992)『岩波 世界の巨匠 ルノワール』岩波書店.
②「週刊美術館 2 ルノワール」2000年2月15日号,小学館.

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