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カレンダーこぼれ話 vol.4「アンリ・マティス‐ 色彩の魔術師の秘密 後編」

マティス

さて、後編では前編に引き続き、勤勉な画家マティスのつくりだす美しい世界とそのモチーフ、己を追求し続けた人生に迫っていきたいと思います。

 

色の魔術師の秘密「黒」

マティスの鮮やかな色使いのアクセントとして使われている黒色。実は画家の間で黒は「絵に輝きがなくなる」と言われて敬遠されている色でした。
マティスはマネの作品や、日本の浮世絵から学び、大胆な配色の中にあえて黒を巧みに取り入れることで、色彩の魔術師としての地位を確立させていったそう。
ファッションで取り上げられる差し色のように、アクセントになる色を入れることでお互いを引き立てあうような配色のセンスが、マティスは突出していたのかもしれません。

マティス

著名な画家との繋がり

勉強熱心なマティスは実験作として、色々なことを試しています。9月のページで使われている「豪奢、静寂、悦楽」という点描画は、マティスが新印象派の作品に挑戦したもの。ただしこの1点だけで、他の絵を発表した途端、その作風が新印象派のものとあまりにも違ったため、マティスは激怒されたそう。
マティス
その他に、印象派画家のジョン・ピーター・ラッセルにまだ無名だったゴッホの作品を紹介されて新しい色のあり方に出会ったり、筆の柄で絵の具を削って仕上げを加えてみたり。マティスの挑戦と自己分析は、時代を経て様々に様式を変えていく画風に表れています。

そしてそんなところが共鳴したのか、マティスは12歳年下のピカソと出会い、終生友情で結ばれ、お互いに影響を与えあったそう。自然を描くマティスと、想像したものを描くピカソは対極にいるようで、鮮やかな色の使い方や、大胆なタッチなど、作品によっては似通った雰囲気もあります。20世紀を代表する画家と呼ばれる二人の作品を比べてみるのもオススメです。

 

マティスの愛したモチーフたち

8月のページに使われている「金魚」、11月の「ルーマニアのブラウス」などはマティスの愛したモチーフとして知られています。
生涯小さく色鮮やかなものを愛したマティスは、東洋から伝わった金魚を愛し、たびたび作品にとり入れました。マティスの金魚作品は1912年前後の43歳頃に集中していて、絵を扱う画商から「金魚の巨匠」と呼ばれることもあったそう。

マティス


そして11月のページに使われている、女性が身にまとう白いブラウスもマティスのお気に入りのモチーフです。

もとルーマニアの王家の品だそうで、美しい刺繍の細工も細かく描かれていますが、このほかにも数点の作品に異なる雰囲気で描かれた同じブラウスが登場しています。

この作品「ルーマニアのブラウス」はマティスが71歳の時に、15点の習作の上描かれました。少し斜めにかしいだポーズが不思議な雰囲気をつくりあげていますが、制作過程の写真によると、この作品の女性は椅子に座っているそう。手の部分の白は完成直前に付け加えられたとか。ブラウスの白い反射なのか、あふれ出る色の意図に思いを馳せてみても楽しめます。

マティス

 

マティスは自分の絵が簡単そうと言われたり、短時間で描かれたと思われるのを嫌っていて、こうした習作の過程も写真で残し、絵の周りに並べて展示したこともあるそうです。

写真を並べることでどのような過程で描かれたのかがわかってしまうため、模倣に繋がり神秘性に欠けるという点からこうしたことを嫌う画家が多い中、マティスはそれよりも自身の作品を振り返ることで、さらに絵を良くするための研究になると捉えていたそうです。

法律家だった真面目な姿勢が、彼の作風の追求に出ているのかもしれませんね。

 

大手術を機に「切り絵」制作、そして空間デザインへ

そして第二の転機、マティスは72歳にして十二指腸癌に侵され、大手術が行われます。手術は成功したのですが、体力の必要な油絵を描くことができなくなってしまったマティス。

普通の人間ならそこで色々なことを諦めそうなものですが、マティスは違いました。彼は構図を考えるために用いていた、あまり力が必要とされない切り絵に取り組み始めます。助手に命じて自分の選んだ色を紙に塗らせ、その紙を切り抜くことで絵が描ける、と彼は新境地を見つけ出したのです。

旧約聖書のダビデ王を描いたとされる「王の悲しみ」(カレンダー12月)は292×386㎝の大作。
大胆な構図と配色からは、亡くなる2年前にしてなお衰えなかったマティスの想像力と色へのさらなる追求が伝わってきます。

マティス
その他にもマティスは、切り絵から着想を得た色を躍動させられる技法を活かし、光を色で切りとったような、美しい表現のステンドグラスを制作します。そしてそのステンドグラスが真っ白なタイルの壁に光で彩りを加えるようにデザインし、ヴァンスのロザリオ礼拝堂内部を完成させました。

79歳で手掛けた教会デザインは、マティスの空間プロデュースにまで至る才能を見せつけてくれます。

その後、最後まで自分を表現し、想像力を駆使し続けた偉大な画家は心臓発作により85歳にして人生の幕を閉じました。その生き方は、20世紀最大の画家の一人として、歴史に名を遺しています。

今回ご紹介したカレンダーは、マティスの画法の移り変わりなどに着目して絵を選ぶことにこだわりました。
最後まで己を突き詰めた画家のたどった軌跡とともに一年を過ごすと、何か胸にこみ上げてきそうな気がします。

 

参考文献:①「小学館ウィークリーブック:マティス」,『週刊美術館』第36回配本2000年10月24日号, 小学館.
②「ラ ミューズ 第19号 パリ国立近代美術館」1993年2月23日号,講談社.

 

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